認知症が原因で行方不明になる人が増え続けているとニュースがありました。2022年の1年間に警察に届け出られた人数は1万8709人に上り、2012年(9607人)からほぼ倍増です。
「自分は大丈夫、他人を頼ることはできない」と言いたいところですが、いつ認知症を発症してしまうかわかりません。
身近に信頼のおける親族がいない場合、利用できる制度や事前にできる準備についてご紹介いたします。
1. 成年後見制度について
2. 成年後見人等の主な仕事
3. 成年後見制度の手続きとかかる費用
4. まとめ ー後見人制度を利用するにあたりー
1. 成年後見制度について
認知症や障害などで判断能力が低下し、日常生活や財産の管理に支障をきたすようになってしまった人を保護、支援する制度です。
銀行が実際に認知症と診断されてしまった事実を知ってしまうと、預金口座から現金の引き出しはできなくなり、日常生活にも支障が起きてしまいます。
生活の支援や財産の管理をする成年後見人等(本人の判断能力により、「補助人」「保佐人」「成年後見人」)が選ばれ、本人の代わりに施設の入所契約や手続きを行ったり、預金等の管理、不動産の売却などを行っていきます。
成年後見制度は大きく分けて、「法定後見制度」と「任意後見制度」に分けられます。
法定後見制度
すでに判断能力が低下している方についてご自身もしくはご家族などが「支援する人をつけてほしい」と裁判所に申し立てます。裁判所が専門家や家族を判断能力に応じて、後見人等(青年後見人、保佐人、補助人)に選任。
任意後見制度
十分な判断能力があるうちに、判断能力の低下に備えて自分で後見人を選ぶ制度。あらかじめ自身が望むサポート内容や財産管理の準備ができる。将来、サポートが必要となった時に、法定後見制度と同じように裁判所に申し立てを行い、任意後見監督人が選任されてはじめて任意後見人の対応が始まります。
成年後見制度
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法定後見制度
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任意後見制度
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後見
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保佐
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補助
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対象となる方の状況 | 多くの手続・契約などを一人で決めることが難しい方 | 重要な手続・契約などを一人で決めることが心配な方 | 重要な手続・契約の中で一人で決めることに心配がある方 | 判断能力に問題のない方(将来に備えて契約をしておく) |
支援する人の呼び名 | 成年後見人 | 保佐人 | 補助人 | 任意後見人 |
支援する人の選任方法 |
(申立てをした人が候補者の指定は可能だが) |
本人が選任 | ||
代理権 | 全ての行為 | 本人の同意を得て裁判所が定める行為 | 本人の同意を得て裁判所が定める行為 | 本人との契約で定めた行為 |
(本人に対する)同意権 | 同意はない(本人の判断が難しいので) | 法律で定められた重要な行為 | 本人の同意を得て裁判所が定める行為 | なし |
取消権 | 日用品の購入などを除く行為に取消権あり | なし | ||
お願いできない事 |
・食事を作る、掃除をする ・日用品の買い物を代わりに行う ・医療行為の同意 ・実際に介護をする ・毎日のように来てもらったり、話し相手になる ・お葬式やお墓の対応(死後事務委任契約による) ・施設入所のための保証人、身元引受人になること(身元保証サービス) |
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制度利用の取消 |
成年後見制度の利用を開始したら、途中でやめることはできません。 判断能力がない方の財産を守ることができなくなるためです。 医師により症状や障害に回復が見られたという診断書があり、家庭裁判所において成年後見制度の取消が認められれば可能です。 |
裁判所により成年後見人等に選任された弁護士や司法書士、成年後見制度を行う公益社団法人の職員、また親族等による被後見人の財産の私的流用や横領事件が続出しています。
割合としては親族による横領が圧倒的に多いのですが、裁判所が選任する法律の専門家や公益団体が財産を横領することは言語道断です。
・市区町村や社会福祉協議会、権利擁護センターなどの窓口に問い合わせ
・本人や親族等は家庭裁判所に対して、成年後見人の解任を申し立て
・成年後見人の仕事を監督する「成年後見監督人」の選任を家庭裁判所に申し立て
・成年後見監督人は、後見人の仕事に不正があるときには、助言や指示をするほか、家庭裁判所に解任の申立てをすることができる
2. 成年後見人等の主な仕事
本人の生活・医療・介護・福祉など、身のまわりの事柄に目を配りながら本人を保護・支援します。
本人の不動産や預貯金などの財産を管理
- 預貯金や現金の入出金管理、年金の申請・受け取り
- 本人の利益になる範囲であれば本人の財産を支出することが可能
- 自宅の修理やリフォームが必要な場合に費用を被後見人の財産から支払うことは可能
- 遺産分割なども本人に代わり行う
本人のための財産処分
例えば、所有する家が長期間空き家であったり、使用していない車、管理費用などが無駄にかかっているものがある場合は、本人の代わりに売却・処分が可能です。
本人が行った法律行為の取消
被後見人が不当な契約により損害を受けるのを防止するためにあるのが、成年後見人の取消権です。
取消権とは日常生活に関する行為(通常の買い物など)を除いて、本人に判断能力がないため行ってしまった法律行為を取消す権限です。
取消した行為は、最初からなかったものになります。
たとえば、悪質な業者によって「自宅のリフォーム契約を交わした場合」や「高額な羽毛布団を勧められて購入してしまった」など、成年後見人はそれに気づいた時点でその行為を取消すことが可能です。
被後見人の身上監護
本人の希望や身体の状況に応じて療養看護、生活のために必要なことを行います。
・本人の住居の確保及び生活環境の整備
・福祉サービス(介護契約、施設等の入退所)の契約
・治療や入院等の手続、費用の支払
・携帯電話の契約・購入など
・生活状況の定期的な確認
3. 成年後見制度の手続きとかかる費用
成年後見制度を利用するためには、家庭裁判所に申立てを行う
・申立手数料(収入印紙) 800円
・登記手数料(収入印紙) 2,600円
・郵便切手(裁判所から書類を送る郵送代) 3000円~5000円
・鑑定費用 5万円程度(※かからない場合もあります)
※鑑定費用は、本人に判断能力を判断するための費用です。診断書の内容により鑑定を必要としない場合はかかりません。
任意後見制度を利用するためには、任意後見契約(公正証書)が必要
・作成の基本手数料 11,000円(専門家に依頼した場合 10万~20万円)
・登記嘱託手数料 1,400円
・登記所に納付する印紙代 2,600円
・その他 ご本人らに交付する正本等の証書代、登記嘱託書郵送用の切手代など
・申立手数料(収入印紙) 800円
・郵便切手(裁判所から書類を送る郵送代) 3,000円~5,000円
・登録手数料(収入印紙) 1,400円
報酬費用の支払い
申立ての後に成年後見人が決まり、専門家に依頼する場合は報酬費用を支払います。
任意後見人の後見事務は法定後見人と内容はあまり変わらないので、ほぼ同じ報酬となりますが任意契約に基づいて支払われます。
基本報酬 |
通常の後見事務を行った場合 |
管理財産額 |
月額報酬額(目安) |
1千万円以下 | 2万円 | ||
1~5千万円 | 3~4万円 | ||
5千万円より上 | 5~6万円 | ||
付加報酬 | 身上保護等に特別困難な事情があった場合
特別困難な事情の例
・収益不動産が多数あり、その管理が複雑 |
基本報酬額の50%の範囲内で相当額の報酬を付加 |
4. まとめ ー後見人制度を利用するにあたりー
ご自身で大切な財産をはじめ身上のことについて、ひとりで決めることができなくなった場合は誰かに依頼をせざるを得ません。何かを専門的な事を依頼するとなるとどうしても費用がかかってしまいます。
報酬を払うことに抵抗があるかもしれませんが、管理すべき資産が多岐にわたる場合は弁護士や司法書士、内容によっては税理士に依頼するほうが良い場合もあります。
最終的に認知症等になることなく最期を遂げれば、制度を利用することなく報酬も支払う必要はありません。
将来について様々な制度やサービスを知らないまま漠然と不安になっているのではなく、ご自身の財産を見直し、将来において何を望みどのようにすごしていくかを決めていくことから有意義な老後をお過ごしいただくことができると思います。
「何を託すのか」「誰に託すのか」を考えることから始まります。
まずは市区町村で運営されている社会福祉協議会や権利擁護センター、高齢者支援サービスセンターなど中立的な立場の窓口にお問い合わせいただくことや、当社を通じて専門家の方との無料のご相談も可能です。