人生の最終段階になる終末期において、延命治療を行うか、ターミナルケアに切り替えるかの選択は重要です。延命治療によって生命を延ばすことを望むのか、苦痛を最小限に抑え、穏やかに最期を迎えることを望むのか、延命治療かターミナルケアに移行するのか家族は判断し伝えなければなりません。
終末期とは「これ以上治療による回復が見込めない」と診断され、生命が限られている状態のことを指します。病気や加齢によって生命維持が困難となり、医療的に回復が難しい段階です。
目 次
1.延命治療とは
2.ターミナルケアとは
3.ホスピスケアとは
4.看取りとは
5.意識がある時にやっておくこと
6.まとめ
1.延命治療とは
延命治療は、本人の生命を可能な限り延ばすことです。人工呼吸器や点滴、心肺蘇生、透析などの治療を用いて生命維持を図ります。
そのため
① 病気が進行していても、治療によって生命を延長しようとする試みがなされます。
② 医療的な介入が積極的に行われ、回復の見込みがない場合でも命を維持するための処置が施されます。
③ 患者の苦痛や不快感が強くなる可能性がある場合もありますが、それでも命をつなぐことを優先します。患者のQOLが低下する可能性もあります。
- 具体的には
- 人工呼吸器の装着
- 心肺蘇生術(CPR)
- 栄養補給や水分補給を目的とした点滴
- 透析などの長期的な生命維持装置です。
生命は延ばされることがありますが、延命治療に伴う苦痛や不快感が増す可能性もあります。たとえば、人工呼吸器や点滴の挿入、薬の投与が、患者の身体的な負担となることもあります。
2.ターミナルケアとは
ターミナルケアは、本人が「終末期」に入り、延命治療よりも苦痛の緩和や安らかに最期を迎えるためのケアです。治療を通じての回復は目指さず、残りの時間をできる限り快適に過ごせるようサポートします。
そのため
- 延命ではなく、苦痛や不快な症状(痛み、呼吸困難、精神的な不安など)を和らげることが優先されます。
- 本人が最後の時間に尊厳を持って過ごせるよう、身体的・精神的なケアが提供されます。
- 家族へのサポートや感情的なケアも行います。
- 「ホスピスケア」もターミナルケアの一環で、痛みの管理や精神的なサポートが中心です。QOLの向上が図られます。
具体的には
- 痛みを和らげるための鎮痛剤の使用
- 精神的なサポートや家族へのカウンセリング
- 身体的な快適さを保つためのケア(体位の調整、口腔ケアなど)
本人の苦痛を和らげることが最優先されます。「命の長さ」よりも「生活の質(QOL)」を重視し残された時間を安らかに過ごせるようにすることを目指します。
3.ホスピスケアとは
余命が6か月以内と診断された本人に対して提供される、ターミナルケアの一形態です。ホスピスという特定の施設やプログラムに基づいて提供されるケアで「死を迎える準備」をする場で、苦痛から解放され、穏やかに最期を迎えることを目的としています ホスピスケアは、専用のホスピス施設、自宅、あるいは病院のホスピス病棟などで提供されます。自宅でのケアを希望する患者にも、訪問ホスピスとしてケアを提供する場合があります。
目的が延命ではなく、痛みや不快感を和らげ、精神的・感情的・スピリチュアルなケアを通じて、最後の時をできるだけ安らかに過ごせるようにすることが目指され家族へのサポートも行います。
4.看取りとは
家族や医療者が、終末期にある本人に寄り添い、最期の時を見守り、支えることです。「看取り」は本人が亡くなるまでの過程を共に過ごし、できるだけ穏やかで安心した状態で最期を迎えられるようにすることです。
具体的には
①身体のケア: 終末期の身体的な痛みや不快感を和らげるためのケア(緩和ケア)を行います。痛みを緩和するための薬を使用したり、寝たきりの人の体位を変えたりします。
- 精神的なサポート: 死に対する不安や恐れを和らげるために、本人と会話をしたり、安心感を与えることが大切です。また、本人の気持ちを尊重し、必要に応じて一緒に静かに過ごすことも含まれます。
家族や周りの人が寄り添う: 家族や大切な人が側にいて、その人と一緒に時間を過ごすことが重要です。本人が望む環境で過ごし、安心できる状況を作ります。
最期の時間を大切にする: 死を目前にしている人にとって、残された時間が貴重なものとなります。看取りは、その時間を本人が望む形で過ごせるようにサポートします。
看取りの最大の目的は、死を迎える人が苦痛や不安なく、尊厳を持って安らかに最期を迎えられるようにすることです。その人にとって可能な限りの「安心」と「平穏」を提供することが中心となります。
看取りは、ただ「死を見守る」だけではなく、心と体のケアを通じて、本人が最後の時間をできる限り快適に過ごせるようにすることです。
5.意識がある時にやっておくこと
本人が意識不明や重篤な状態で自らの意思を示せなくなった時に家族や医師が判断に困ることになります。
- 本人の意思確認の重要性
終末期の医療方針(延命治療を行うか、ターミナルケアを選択するか)は、本人の意向を最も尊重するべきです。事前に話し合っておくことで、延命治療を続けるか、自然な死を迎えるためのケアに切り替えるかを選ぶことができます。
- 家族が判断を迫られる状況
事前に本人が意向を示していない場合、家族が医療方針を選択する必要があります。
・本人の意向が不明: 家族が本人の希望を知らない場合、本人にとって最良かを決定するのは非常に難しくなります。
- 家族内の意見の不一致: 複数の家族が関わる場合、延命治療を続けたいと考える人と、自然な形で最期を迎えさせたいと考える人が異なることがあります。家族間で意見が割れると最終的な決定が難しくなります。
- 心理的な負担: 家族が命に関わる選択をすることは、大きな心理的負担を伴い「もっと長く生きさせたい」や、「苦しませたくない」という思いで最善の判断が難しくなります。
- 医師の役割と限界
医師も本人や家族に対して助言を行いますが、最終的な治療方針を決定するのは医師ではなく本人や家族です。医師が判断を下すことも可能ですが、医師は倫理的に本人や家族の意向を尊重する立場にあります。
- ④事前に話し合うことの重要性
こうした困難を避けるためには、事前に本人が自らの希望を明確にしておく手段を紹介します。
a.リビングウィル
- 本人が元気なうちに終末期ケアに関する意思を文書で残しておくものです。延命治療を望むかどうか、どのようなケアを受けたいかを明確にし、家族や医療者が迷わずその意思を尊重できます。
b. ACP(アドバンス・ケア・プランニング)
ACPは、本人、家族、医師が事前に話し合い最期にどのような医療を望むかを計画するものです。「人生会議」とも呼ばれ、本人の意思を示し、家族や医療者と共有しておくことものです。もし話し合いがない場合
事前に意思確認がない場合、家族や医師が本人にとって最善の決定を下すことになります。
6.まとめ
本人と家族が事前にしっかり話し合っておくことで、終末期において家族や医療者が判断に困ることが減り、本人の希望に沿った医療を提供できるようになります。