静まり返った病室。モニターの心電図が真っ直ぐになる“死ぬ瞬間”。
けれどあなたの声だけが、まだ届いているかもしれません。
「もう苦しくないよ」「ありがとう」――その一言を耳にして、穏やかに旅立った人を私は何度も見てきました。
今日は “耳は最後まで聞こえる” という医学的事実と、臨床現場で語られるリアルをお届けします。
聴こえないはずの時間に残された“最後に聞こえる音”。その正体を一緒に探りましょう。

目 次
- 医学的事実「聴覚は最後まで残る」
- 心停止で起きる“ガンマ波”──脳の最後の花火
- 臨死体験が語る“最後に聞こえる音”
- 現場のリアル――看護師と家族の証言
- 看取りの言葉──最期に掛けたいフレーズ集
- 家族が出来る3つの音環境ケア
- まとめ
1.医学的事実「聴覚は最後まで残る」
五感の中でいちばん粘り強いのが“耳”です。UBC大学の研究では、昏睡状態のホスピス患者に脳波センサーを付け、名前を呼ぶ音を流したところ、反応パターンが健康な人とほぼ同じだったと報告されています。
豆知識ですが、カタツムリの殻のような 「蝸牛(かぎゅう)」 が耳の奥で振動を電気信号へ変えるおかげで、脳が最後まで音をキャッチできるんですね。9歳のお子さんに説明するときは「鼓膜が太鼓、蝸牛がピアノの鍵盤」と例えるとイメージしやすいです。
つまり、心臓が止まりかけても“聞こえているかもしれない”前提で声を掛けることがエンディングケアの第一歩です。

2.心停止で起きる“ガンマ波”──脳の最後の花火
2023年ミシガン大の速報論文によると、「心停止 ガンマ波」 の異常な高まりが観察されました。
ガンマ波は問題解決や記憶想起に関わる40〜100Hzの高周波。動物実験だけでなく、臨終の患者4名中2名にも同様のスパイクが確認され「脳が最後の総決算をしている可能性がある」と議論されています。
私たち葬祭スタッフが感じる「亡くなる寸前にパッと目を開く」「好きな歌を口ずさむ」現象も、脳が一瞬だけ活性化する証拠かもしれません。だからこそ、音楽や家族の声で安心を届ける価値があるんです。

3.臨死体験が語る“最後に聞こえる音”
海外で300件以上の 臨死体験 インタビューを集めた調査では、最頻出フレーズが 「母の号泣が聞こえた」 次点が 「看護師の歩く靴音」。そして復活後に「最後に聞こえる音 が現実だった」と証言する例が多いんです。
日本でも心肺停止後に蘇生した男性が「医師が“○時○分死亡です”と言った声が耳に刺さった」と語っています。
逆に「死の世界はしーんとしていた」という人もおり、音の有無が“安心感”を左右する鍵だと言えます。

4.現場のリアル――看護師と家族の証言
ICU看護師の河合さんは、亡くなる1時間前の患者に好きな演歌を流したところ、心拍が穏やかになり呼吸が整った体験を語ってくれました。「音楽で空気が柔らかくなる」と。 また、あるご家族は「おばあちゃん、ありがとう」と耳元で囁いた瞬間に、モニターの波形が緩やかにフラットへ向かったと振り返ります。 さらに、私自身もつい先日、中央線の車内で“音が命を呼び戻した”瞬間を目撃しました。三人組の若者の一人が突然意識を失い、顔面蒼白で倒れ込んだんです。一度は目を開けたものの、再び崩れるように気を失ったため、私は娘に頼んでホームの緊急停止ボタンを押しました。けたたましい非常ベルが響いたその瞬間、倒れていた青年がハッと起き上がり、介抱していた友人に「行こうぜ」と声をかけて立ち上がったのです。あの大音量が脳を刺激し、一瞬でスイッチが入ったかのようでした。現場にいた皆さんは“最後の音にならなくて良かった”と涙ぐんでいました。 こうしたエピソードは数え切れません。現場では 最期の言葉 家族 や突発的な音が命の行方を左右する力を何度も目撃しています。

5.看取りの言葉──最期に掛けたいフレーズ集
「看取りの言葉」選びに正解はありません。ただ、不安を煽る言葉より、完了形で肯定する言葉が安心感を生むといわれます。
例えば
- 「大好きだよ、ずっと一緒だよ」はOKですが
- 「行かないで」「どうして死ぬの」はNGです。
死ぬ瞬間 に必要なのは、“愛情の要約版”です。短く、ゆっくり、低めの声で。
豆知識:ヒツジの赤ちゃんは母の声と他人の声を一晩で聞き分けられます。同じように、人は大人になっても“大事な人の声”を脳が特別扱いしているんです。

6.家族が出来る3つの音環境ケア
- エンディングケア 音楽:本人が幼少期に聴いた曲を小音量でループ。安心ホルモン・オキシトシンが増すと言われています。
- 医療機器のアラーム調整:不要なビープ音は看護師に相談し、静寂と必要な音を両立。
- 声かけタイムテーブル:30分ごとに「今そばにいるよ」と同じフレーズを繰り返す。認知症の方でもリズムで記憶が深まる可能性があります。
これらを組み合わせることで、“音の毛布” が出来上がり、旅立つ人を穏やかに包み込めます。

7.まとめ
- 聴覚は最期まで機能し、医学的にも裏付けがあります。
- 心停止後にガンマ波が立ち上がる“脳の花火”が確認されました。
- 「ありがとう」「大好き」――短い 看取りの言葉 が安心をもたらします。
家族の声+思い出の音楽 が、静かな看取りを支えるキーアイテム。
