忘れられないお葬式 誰かに話したくなる 心に残るお葬式 ②

お葬式中の静寂の中に響き渡ったのは・・・母への最期の 切なく 美しい二胡(にこ)の旋律でした。その瞬間、お葬式会場全体が、誰もが言葉を失い、その一音一音に、耳と心を澄ませ、魂ごと引き込まれていきました。息子が奏でた“別れの旋律”は、きっと母の魂へと、真っ直ぐに届いたに違いありません。

でも、この演奏・・・実は、 最初は“キッパリと 断られた”ものだったのです。

ご子息の心を動かしたのは、たった一言の“想いある言葉” それは、一体何だったのでしょうか?

目次

あの日の 忘れられないお葬式 第2回目

前回の 第1回「忘れられない人、忘れられないお葬式」。まだご覧になっていない方は、【忘れられない女性】をぜひご覧ください。

 本日は、ベテランB支配人の体験談で Bは葬祭業歴35年。どんな状況でも心に寄り添い、最善の形を導き出す、豊富な知識と、圧倒的な経験。そして何より、「自分が ご遺族の家族となり 対応している」という彼の想い。そう語る彼も、すべてのお葬式が忘れられない…と言います。

 けれど、その中でも、今なお心に残る“ひとつのお葬式のご紹介です。ご遺族のプライバシーに関わるため、詳細は控えさせていただきますが・・・本日は、そのエピソードをご紹介します。

あの日 お葬式は ただの儀式ではありませんでした

あの日、お葬式はただの儀式ではありませんでした。それは、そこに集った全員の心を深く震わせる“演奏会”となったのです。

 始まりは、お母様が息を引き取られた日、ご子息と奥様が病院に駆けつけ、弊社のB支配人も、 病室へ向かいました。すぐに葬儀の話をするのではなく、世間話を交えながら、少しずつご家族の気持ちに寄り添っていく。それが、B支配人のやり方です。

お葬式の打ち合わせの話をしているとき、ふと、ご子息の口からこんな言葉がこぼれました。

「実は、私…二胡の演奏をしておりまして。CDも出しているんです。明日 学校で生徒のレッスンの授業があり、キャンセルしなくてはいけないので電話をしてきます」と言い席をたちました。

二胡(にこ)とは 中国の伝統的な弦楽器で、二本の弦の間を 馬の尾の毛を張った弓で こすって音を奏でます。その音色は、悲しみと美しさが溶け合ったような、妖艶でもある響きで繊細です。

坂本龍一が音楽を手がけた 映画『ラストエンペラー』でも、この二胡が使われています。

お葬式で 二胡の演奏を拒否するご子息の本当の想いとは?

この時、B支配人の胸に、ある想いが静かに芽生えていました。お葬式のときに、ご子息が二胡の演奏でお母様を送ってくださったら・・・きっと、亡くなられたお母様も、どれほどお喜びになるだろう。むしろ、ご子息も当然そのつもりでいて、演奏を考えてくださっているのではないかと思っていました。

B支配人は ご子息に、「もしよろしければ、お母様の前で、あなたの二胡を、演奏していただけませんか?お母様への最期の贈りものとして…ぜひにと思いまして。。。」と提案しました。

ご子息は下を向き 「……すみません 二胡は、演奏しません」と おっしゃいました。

まさか、と思いました。丁寧に、静かにお伝えしたつもりで、「はい、ぜひ」と、快く受けてくださると思っていた。けれど返ってきたのは、予想を裏切る“きっぱりとした拒絶”でした。

支配人の胸の中に、“なぜ…?という思いと 何が、ご子息の心にブレーキをかけているのか?” 理由も聞けませんでした。しかし、B支配人は 無理強いは禁物なのはよく理解していましたが、このまま終わるわけにはいかない思いになり、迷惑かもしれないが 何としてでも、その人らしい“オリジナルのお葬式”を届けたい!B支配人の、静かで熱い想いの挑戦がスタートしました。

二度目の打ち合わせは、火葬場や花祭壇のデザインについて、ご家族とB支配人で、話し合いが静かに進んでいました。内容は順調に決まりはじめていました。会話の雰囲気も少しだけ、やわらかくなってきた その時、B支配人は、もう一度だけ、そっと切り出しました。

「…あらためてになりますが、もし可能であれば、お母様の前で、一曲だけ…二胡を演奏していただけないでしょうか?演奏が難しければ、ご子息の二胡のCDを流すだけでも いかがでしょうか?お母様も、きっと聴きたいと思われるのではないかと思いまして…」

ご子息が視線を落とし、こう おっしゃいました。

「……演奏は、しないことにしているんです。」

それでもB支配人は、あきらめませんでした。ご子息の想いを尊重しながらも、B支配人は やさしく、でも真剣に続けました。

「ご無理を言ってすみません。…ですが、もしよろしければ、理由を教えていただけませんか?」

 「お母様も、ずっと…あなたの演奏を、誇りに思っていたはずです。自慢の息子さんだったのではないでしょうか?」

しばらくの沈黙のあと、やっと口を開いてくださいました。その理由は――支配人も、想像すらしていなかったものでした。

ご子息は「二年前、父の葬儀で、私は二胡を演奏しました。悲しみの中で、できる限りの想いを込めて、父に届けたつもりでしたが、その場にいた方々が、皆、泣き崩れてしまって…お坊様まで涙をこらえきれず、お経が途中で止まってしまったんです。“感動した”と言ってくれる人もいました…。でも私は、あれでお葬式を“壊してしまった”と思ったんです。だから決めたんです。

 お葬式では、もう二度と…二胡を弾かないと。母には聴かせてあげたい。でも…葬儀は儀式ですから。中断させてしまうわけには、いかないんです。」と お話ししてくださいました。

B支配人の 静かで熱い想いの挑戦・・・

B支配人は深くうなずき、静かにご子息の気持ちを受け止めました。Bがゆっくりと正面を向き、誠意を込めてご子息に語りかけました。

「……そうだったのですね。お話ししてくださって、ありがとうございます。ですが、それでも私は、やはり思うのです・・・あなたの二胡の音は、“想いそのもの”です。その音が、お母様に届くことが 何よりのご供養になると信じています。どうか、1曲だけでかまいません。私たちは 絶対に泣きません。お坊様にも事前にお伝えし、お読経が止まることのないように いたします。」

「スタッフ一同、プロとして徹します。葬儀を台無しにすることは 決していたしません。最善を尽くすと、ここにお約束いたします!」と、Bは揺るぎなく真っ直ぐに続けました。

「どうか…お母様のために。あなたの二胡の音色を、聴かせていただけないでしょうか?」

支配人の言葉には、プロとしての覚悟と、家族のような深い想いが込められていました。

それは、お願いではなく・・・“心を届けたい”という祈りにも似た訴えでした。ご子息は静かに目を伏せ沈黙が続き、迷いと感情が交差しているかのようでした。

ただのお葬式にならなかった 別れの旋律🎵

 
長い沈黙のあと、ご子息は ゆっくり顔を上げ 「…そんなに仰ってくださるなら、そして、葬儀が台無しにならないように ちゃんと配慮してくださるのなら、母のために、二胡を演奏してみようと思います。どうぞ、よろしくお願いいたします。」とお話しくださいました。

B支配人は 静かに深くうなずき、その言葉に、ただただ、静かに、深く一礼しました。35年、葬儀という“お別れの時間”に向き合ってきた彼の胸にも、抑えきれない熱いものが込み上げていました。

こうして、たった一曲の・・・けれど、一生忘れられない“演奏”が、生まれる準備が始まったのです。

お葬式 当日 お別れの形は 一つじゃない

お葬式当日、お坊様のお経が終わり、スタッフがお棺を縦に置き換え、ご家族や参列者がその周囲に集まります。

 ご子息は、母のすぐ横に座り、二胡を膝に置きました。

 一度だけ目を閉じて 深く息を吸い込み・・・二胡の弓をゆっくりと弦に添えました。響き始めたのは、お母様が生前、大好きだった一曲。

杏里の「オリビアを聴きながら」。

会場の誰もが動かず、息をのんで音色に耳を澄ませました。

演奏が終わったあと 残ったもの・・・それは、悲しみではなく、“感謝”でした。

ご子息がそっと弓を下ろし、目を閉じたまま、深く、深く、静かに頭を下げました。お坊様は 静かに手を合わせ、深く一礼しました。お別れの形は、一つじゃない。大切なのは、その人らしい時間を、心を込めて紡ぐ(つむぐ)こと。

その原点を、私たちはまたひとつ、教えていただきましたと、B支配人は言っておりました。

【まとめ】誰かを想い、誰かに想われた記憶は、きっとその人の人生を、これからも 照らし続けます

本日は 二胡の音色に込められた、ご子息の深い想い。 そして、それを支えたD支配人の まっすぐな願いでした。

“お別れ”は、決して悲しみだけではありません。誰かを想い、誰かに想われた記憶は、きっとその人の人生を、そっと照らし続けてくれます。

私たちは、葬儀という限られた時間の中で、その人らしい「最後のありがとう」を形にするお手伝いをしています。

今日のお葬式が、ご家族にとって、そして参列された皆さまにとって――そしてお読みいただいた皆様ににとっても、本当に“忘れられないひととき”になったことを、心から願っております。

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