葬儀や法要で必ず行われることの一つが”読経”です。お経はお釈迦様の教えを記録したものといわれていますが、宗派によって内容や作法も異なります。そこで今回は、お経の意味と宗派による違いや読経時のマナーについて解説します。
宗派の違いによる葬儀のマナーについて知りたい方は「お寺の葬儀は宗派によって違う、お焼香回数とマナー」の記事をご覧ください。
そもそもお経とは?
読経の意味を説明する前に、まずお経そのものについて解説しましょう。
お経とは、本来”経典”と呼ばれるもので、お釈迦様の教えを弟子たちが記録したものといわれています。その内容は、生きていくために大事にしたいことや守るべきこと、考え方、お釈迦様のお恵みについてなど多岐にわたります。日本で読まれているお経は以下の方法で書かれており、宗派によって記載方法が異なります。
- 梵字の原文
梵字(サンスクリット語)は、お釈迦様が生まれ育った古代インドで使われていた言葉です。参列者に渡される経本には、カタカナ表記になっている場合がほとんどです。 - 梵字を漢訳したもの
梵字で書かれた経本を中国で訳し、日本に持ち込んだものです。日本で読まれているお経のほとんどは、この表記方法で書かれたものです。 - 漢訳されたものを和訳したもの
漢訳されたものをさらに和訳したものは、自宅で読経する勤行で用いられる表記方法です。
お経の歴史
紀元前5~6世紀に生まれたお釈迦様(ゴータマ・シッダールタ)はインド王家の出身。苦しむ民を救うために29歳で出家し、6年の修業ののち、悟りを開きます。悟りを開いた後は弟子や信者らに自らの教えを説法する旅に出ます。
説法は口で伝える口述が基本でした。しかし、お釈迦様が亡くなった後、「師匠の教えを正しく伝えたい」と思う弟子たちがお釈迦様の教えを共有し、文章として残すようになりました。これが現代におけるお経の始まりといわれています。
葬儀でお経を唱える意味とは?
そもそも読経とは、仏教徒がお経を読みあげる行為そのものを指します。お経を読みあげることで、お経の意味を理解・実践できるとされており、いつしか読経という言葉そのものが宗教的な意味を持つようになりました。そのため、普段からお経を読んでいれば、それは読経といえます。
読経は葬儀等で読みあげられるため、亡くなった故人のためのものと思われがちです。確かに故人が安らかに眠り、極楽浄土に無事たどり着けるよう導く経典があるのは事実ですが、同時にご遺族の心の傷を癒し、幸せな生活を送れるよう導くお経もあります。この世に残されたご遺族・参列者の未来の幸せを願うものでもあるのです。
複数のお経が読まれる場合も
お経にはたくさんの種類があり、様々な意味合いを持っています。どの時にどんなお経を読むかは宗派により異なり、故人やご遺族の意向によって選ぶお経が変わる場合もあります。興味がある方は僧侶と打合せする際に、どんなお経を読む予定か聞いてみてもよいかもしれません。
宗派別 よく読まれるお経一覧
仏教には複数の宗派があり、宗派によって読むお経も異なります。今回は一般的に知られている宗派ごとに有名なお経をまとめました。
浄土宗
浄土宗の葬儀では、以下の順番で読経を進めることがほとんどです。
お経の名前 |
内容や特徴 |
香偈 |
宗派に関係なく読まれるお経。このお経を読んで身を清めてから勤行をする |
三宝礼 |
「往生浄土懺願儀」というお経の一部。自分自身の存在をお釈迦様に伝えることができる |
開経偈 |
読経前に行うお経。仏の教えに出会えたことへの感謝が書かれている |
阿弥陀仏経(阿弥陀経) |
「南無阿弥陀仏」という有名なフレーズが出てくるお経。極楽浄土がどんな場所か、極楽浄土への行き方を故人に伝える。お経そのものが短いので「小経」と呼ばれることも |
無量寿経 |
長めのお経なので「大経」と呼ばれている。阿弥陀如来が修行中から極楽浄土へ行った経緯をまとめたお経 |
浄土真宗
浄土真宗は本願寺派・大谷派とさらに2つの宗派がありますが、どちらでも共通して読むお経がいくつかあります。
お経の種類 |
内容や特徴 |
正信念仏偈 (正信偈) |
浄土真宗を開いた親鸞の言葉をまとめたもの |
大無量寿経 |
阿弥陀如来の慈悲について書かれたお経。どんな人でも助けて幸福にするという意味合いが込められている |
観無量寿経 |
極楽浄土に行くために必要なことを説くお経 |
阿弥陀経 |
浄土宗で用いられているものと同じ |
日蓮宗
日蓮宗は日蓮大聖人を開祖とする宗派で、葬儀の進め方と同様にお経も特徴的です。
日蓮宗で有名なお経は法華経。法華経は故人を霊山浄土に導くためのお経で、誰でも平等に成仏できるという意味がこもっています。「南無妙法蓮華経」と唱え、動物や自然に対しても仏が存在しているという思いで手を合わせます。
華厳経
華厳経は華厳宗の基本といえるお経で、古代インドにあった経典を集めて形にしたお経です。現在においては、ほとんど読みあげられることはありませんが、華厳経の内容は他のお経に比べて難しいといわれています。というのも、華厳経はお釈迦様の悟りを最もリアルに記録したものとされているからです。色々な僧侶が解読に挑んだ結果、色々な宗派の考えを盛り込みながら現代に残る華厳経ができあがりました。
般若心経
般若心経は仏教に詳しくない人でもピンときやすいのではないでしょうか?それもそのはず。般若心経は法相宗・天台宗・真言宗・禅宗と多くの宗派で採用されているお経です。「空」と「般若」について書かれており、この世に常なるものはなく、こだわりを捨てることで苦しみから解放されるといった内容が書かれています。
ちなみに浄土真宗・日蓮宗・華厳宗では般若心経を使いません。浄土真宗は他の宗派と共通するお経がいくつかありますが、このお経は教義と異なるため採用されていません。
ここに気を付けよう!読経時のマナー
お経を読みあげるのは僧侶に限りません。地域や宗派によっては参列者用の経本が配られ、僧侶の読経に合わせて読む場合もあります。参列者の読経は故人への冥福を祈ると同時に、徳を授かれる行為であるため、葬儀の際に経本を渡された場合は、できる範囲で読経を行いましょう。
また読経中に行われる以下2つの行為についても軽く説明します。
- 合掌
胸の前で手を合わせる合掌。実はしっかりと意味があることをご存知ですか?右手は仏様や悟りの世界を表し、左手は自分自身を指しています。葬儀での合掌は、故人を仏様に託して故人の冥福を祈る気持ちを表しています。 - 礼拝(らいはい)
合掌した状態でお辞儀をすることを礼拝と呼びます。礼拝は感謝を意味することが多く、挨拶の一部として用いられることもあります。礼拝時のお辞儀の角度は45度にし、深くお辞儀し過ぎないよう注意しましょう。
まとめ
葬儀で必ず読まれるお経。お釈迦様の教えを説き、故人を極楽に導くだけでなく、今生きている私たちも幸せに導くといった意味も含まれています。
数多くの宗派がありますが、般若心経のように複数の宗派で採用されているお経もあります。また、日蓮宗のようにその宗派独自のお経が読まれる場合も。合掌や礼拝といった宗派にかかわらず共通する所作についても確認しておくと安心です。
なお、より細かい宗派の違いによる葬儀のマナーについては「お寺の葬儀は宗派によって違う、お焼香回数とマナー」をご覧ください。