終活に向けてあれこれと考えるようになり、少しずついろいろな事を整理したり片付けることも大切です。終活セミナーで勧められたエンディングノートを書いていれば「とりあえず大丈夫」と思われていらっしゃいませんか。
うちには大した財産がないし、相続税もかからないから大丈夫
うちには大した財産がないから、相続税もかからないと思うし、家族を尊重して相続人同士でうまく話し合っていい方向にまとまればいいかなと円満相続を期待されていらっしゃいませんか?
家庭裁判所で扱う相続案件で、一番多いのは5000万円以下の遺産分割
こちらの表は家庭裁判所に持ち込まれた遺産分割事件(認容・調整成立件数)の一覧です。
令和元年の情報ですが、毎年ほぼ同じような傾向にあります。
件数の多さで気になるのは、1000万円以下、5000万円以下の遺産のご家族の間での相続トラブルです。
遺産の価格 | ||||||
遺産の内容 | 1000万円 以下 |
5000万円 以下 |
1億円 以下 |
5億円 以下 |
5億円 |
算定不能 ・不詳 |
不動産のみ | 927 | 586 | 63 | 25 | 3 | 99 |
現金等、動産その他(不動産以外のみ) | 719 | 583 | 88 | 35 | 2 | 43 |
不動産、現金等、動産その他を含む | 802 | 1928 | 629 | 430 | 37 | 225 |
全体に占める割合 | 33.9% | 42.9% | 10.8% | 6.8% | 0.6% | 5.1% |
令和元年 遺産分割事件のうち認容・調停成立件数
相続トラブルは事前の準備不足が引き起こします
遺産相続のトラブルは資産家の間で行われるのではないかと思われがちです。
しかし、実際の相続が『争族』になってしまった事例は、その逆で身近なご家族の中で起きているようです。
資産家の方であれば、身近な税理士の方から助言があったり、相続税が高額になることを考慮して相続準備を行っているのではないかと考えられます。
家に1000万円も資産なんてあるはずがないと思われがちですが、全体の3分の1の事案に該当しています。持ち家があると財産として思った以上の評価がされてしまいます。多少古い家だから売る価値がないと思っていても都市部で土地付建物であれば、1000万円以上の評価となってしまいます。
おかしな言い方ですが、遺産の価格が低い方がトラブルの可能性が高くなるともいえます。
死亡により口座が凍結した状況で、遺産整理でお金がかかってしまう上に相続でもめてしまうことは誰も望まないことです。
財産の多さに限らず、お元気なうちに相続の対策をしておくことが重要です。
相続人の相続割合に応じた遺産分割は難しい
法律で定められた法定相続分がありますが、持ち分どおりに分けきることは困難です。特に自宅は配偶者がそのまま住み続けるために相続したいと希望する一方、残りの相続人が自宅を売却して現金を相続したいと主張することもあります。遺された配偶者は自宅を売却して現金と少ない年金で生活することは厳しいものがあります。
遺産の分割は、必ずしも法定相続分で行わなければならないことではなく、遺産分割協議をして各相続人の間で自由な割合で遺産分割することができるものです。ただし、最終的な遺産分割が確定されるには、相続人全員の合意が必要になります。
家族を相続トラブルから守る切り札は『遺言書』
いかに相続をスムーズに進められるかどうか、指針となるのはやはり遺言書です。
とくに子供のいない夫婦や分割しにくい財産がある人は必要です。
お元気で意識がはっかりとしている時に作成することが安心につながります。
遺言書を作成しておくほうがよいケース
法定相続分どおりに相続させたくない場合
特に子供がいない場合に、親や兄弟姉妹から法定相続分を請求されて配偶者が住む家を無くすことがないようにしたい。遺言書の作成で配偶者を守ることができます。
気がかりな家族がいる場合
病気や障害のある配偶者や子供がいる場合、必要な財産が相続されるよう遺言します。
特に精神疾患や障害のあるご家族には後見人となる方を選任しておく必要があります。
一人では日常生活に支障がある障害のあるご家族の方には、介護を任せることのできる人や施設を見つけ、その対価として財産を贈与(負担付贈与)・信託(特定贈与信託)することです。
離婚、再婚などで家族関係が複雑な方
離婚した相手との間にできた子供、今の配偶者との間の子供の間で相続手続きがおきます。子供に他の相続人の存在を伝える必要もあります。今の配偶者との子に多く相続させたい場合は、その旨を遺言書に書く必要があります。
また、再婚相手の連れ子には相続権がありません。財産を相続させたい場合は養子縁組をするか、遺言書が必要です。
相続トラブルを避ける遺言書作成のポイント
遺言書は法的な効力が生じます。遺言書作成に判断基準となるポイントは以下となります。
家族の現在の日常生活が続けられることを優先
今、住んでいる家にそのまま住み続けられるようにする。子供が小さければ、成人するまで同じような生活を送ることができる環境を残す。
家族の生活状況にあった財産が相続されるようにする。遠方の不動産を相続させても固定資産税の負担がかかります。管理することが難しい人が相続されることは避けます。
相続を受けて困るもの、運用できないものは避ける
株式やFX、外貨預金など、慣れない金融商品の相続を受けてもうまく活かすことができないものは避ける方がいいです。また被相続人にとって大切なものであっても、相続人にとって有益でないものもあります。
不動産の相続は共有をなるべく避け、具体的に記載する
不動産を共有にすると、相続人の結婚や死亡などで権利関係が複雑になってしまいます。不動産は法務局で登記簿謄本を取り寄せ、地番や家屋番号など明確にして、具体的に誰が相続人となるかを記載しましょう。
遺言書は相続トラブル回避の万能薬ではないですが
遺言書があれば筋書き通りに相続が行われてトラブルが起こらないと確約するものではありませんが、少なくとも遺族の方々の争族の負担を軽減することができます。
スムーズな相続がその後の生活を安心して送ることができる一助となります。